Ⅱ被害抑制に効果的な捕獲技術の基本

被害抑制に効果的な捕獲の考え方

 増えすぎたシカによる被害を防ぐには、シカをどのように捕獲すれば良いでしょうか。理想的には、広島県内全域のシカを等しく低密度に抑えることかもしれませんが、森林が広く連続する現在、それは困難です。しかしながら、施業地周辺の群れを一時的に低密度化することは可能です。このような捕獲は、施業地の水際でいわば迎え撃つ捕獲をすることから、「水際捕獲」とよびます。一方で、より広い範囲のシカを低密度化するには、山中に潜むシカの居所を突き止める追撃する戦略を山中で行わなければなりません。これは、次なる加害個体を捕獲するという意味で、「予防捕獲」とよびます。この予防捕獲は、広大な山林を長期にわたって対象にしなければならないことから、多くのコストを要する一方で効果が限定的にならざるを得ません。

 これらのことから林業被害対策では、この水際捕獲が被害抑制に最も効果的であると考えられます。

水際捕獲が被害抑制に効果を発揮した事例

 県が実施した事業では、水際捕獲を試行して被害抑制に効果を有した事例が確認できています。侵入防止柵が設置されたヒノキ等の苗を植えた施業地において、そのすぐ周囲で1ヶ月間に31頭ものシカを捕獲したところ、3ヶ月程度、被害がなくなるという結果を得ました。
 侵入防止柵が全く設置されていない場合、同一期間で同程度の捕獲頭数を得ても被害抑制効果は得られなかったことから、侵入防止柵の重要性も改めて確認されました。

捕獲手法:誘引餌を用いた捕獲

 本マニュアルで紹介する捕獲手法は、誘引餌を用いて、シカをわな位置におびき寄せつつ「足くくりわな」で捕獲するものです。本手法は、狩猟経験が乏しくても、捕獲理論を理解し、精緻に作業すれば捕獲効率を向上することが可能です。狩猟では一般に、「くくりわな」はシカが通るけものみちと足跡を見極めて(これを狩猟では「見切り」とよびます)、最も確率よく足を置くと思われる位置の地中にわなを隠し、捕獲するものです。こうした捕獲は、いわばシカの動きに対して捕獲者が寄り添う考え方です。自ずと捕獲者は、シカの通り道を丹念にたどり、急斜面を上り下りする、といった危険な作業が要求されます。一方、本マニュアルで推奨する捕獲の考え方は、捕獲者の都合が良いよう誘引餌によってシカの動きをコントロールしようというものです。誘引するということは、「見切り」という高い技術を持たなくても捕獲者の都合の良い場所にシカを誘き寄せることができるわけですから、作業効率、安全性に秀でることになります。実際にこのようにわなを設置すれば、高い捕獲効率が得られることがわかってきました。

 本手法では、狩猟と異なり、「くくりわな」をけものみち上ではなく、捕獲者にとって都合が良い、例えばアクセスがよく捕獲作業が効率的な林道沿いなどに設置します。そして誘引餌を設置することで、シカを人間の都合のよい位置に誘導し、効率よく捕獲するのです。誘引餌をシカだけが誘引されるものを選び、けものみちから外れてわなをかけることは、錯誤捕獲の予防にもつながります。通常、けものみちは多様なけものが利用するため、けものみちを外したわなの設置は効果的です。

参考動画:誘引餌を用いた捕獲の仕組み
誘引餌による捕獲の仕組み
①けものみちから少し外れたところに餌を置く(気づかせる)
②常に餌の新鮮さを保ち,最低1週間誘引作業を継続(おびき寄せ,執着させる)
③わなを設置
④捕獲

捕獲に関する法律や制度

 捕獲は、動物の命を奪う行為であり、時に人をも殺傷する捕獲具を使用する危険を伴う行為です。そのため、鳥獣の捕獲許可を得る行為から準備、捕獲、捕獲個体の処分に至るまで、様々な法律が定められています。実施の際には、計画を立て、行政担当者の許可を得て、計画通りの捕獲を実施します。

鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(鳥獣保護管理法)

 鳥獣保護管理法には、「鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化を図り、もって生物の多様性の確保、生活環境の保全及び農林水産業の健全な発展に寄与することを通じて、自然環境の恵沢を享受できる国民生活の確保及び地域社会の健全な発展に資すること」を目的として、鳥獣の保護及び管理を図るための事業の実施や、猟具の使用に係る危険の予防に関する規定などが定められています。
 鳥獣捕獲の許可は、本法律の第9条:鳥獣の捕獲等及び鳥類の卵の採取等の許可に基づき、広島県又は市町から発出されます。捕獲の許可に加え、捕獲場所や捕獲具、捕獲個体の処分方法(同法18条:鳥獣の放置等の禁止)など、鳥獣捕獲を実施するうえで、様々な事項が本法律で定められています。

 また併せて、鳥獣保護管理法の施行規則というものがあります。こちらでは、適切な処理が困難な場合とは、どのような場合か、などを定めています(施行規則第19条)。
※捕獲の目的によって許可権者は異なります。

鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律 | e-Gov法令検索

鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律施行規則 | e-Gov法令検索

銃砲刀剣類所持等取締法(銃刀法)

 猟銃の所持するには、銃刀法に基づき、講習会の受講や考査への合格など申請手続きが必要となります。本法律には、鉄砲、刀剣類などの所持、使用などに関する危害予防上必要な規制について、定められてます。

銃砲刀剣類所持等取締法 | e-Gov法令検索

動物の愛護及び管理に関する法律(動物愛護管理法)

 動物愛護管理法は、動物の虐待及び遺棄の防止、動物の適正な取扱などを定め、人と動物の共生する社会の実現を図ることを目的とした法律です。特にわなによる捕獲では、捕獲した鳥獣にとどめをさす「止めさし」が必要になります。本法律の第40条により、動物を殺さなければならない場合には、できる限りその動物に苦痛を与えない方法で行わなければならないと定められています。

動物の愛護及び管理に関する法律 | e-Gov法令検索

廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)

 捕獲した個体は、一般廃棄物となります。捕獲個体の処分方法は、地方自治体の担当者によく相談した上で、この法律に沿って適切に処理します。

廃棄物の処理及び清掃に関する法律 | e-Gov法令検索

その他の法律

 この4法以外にも、捕獲する場所等によっては「自然公園法」「自然環境保全法」「文化財保護法」等に関する規制が係る場合があります。これら捕獲に関わる法令解説は、認定鳥獣捕獲等事業者向けテキストによくまとめられていますので、参考にしてください。
参考:環境省_認定鳥獣捕獲等事業者制度 | 講習実施に係る資料類ダウンロード (env.go.jp)

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