Ⅳ捕獲の実践

 捕獲の大きな流れは、事前誘引、わなの設置、見回り、止めさし、捕獲個体の処分になります。いずれの作業も安全に配慮し、原則2名1組で実施します。

事前誘引

 事前誘引作業は、わなを設置する少なくとも1~2週間前から実施します。事前の誘引期間は、より長いと群れの多くを捕獲することに貢献すると期待されます。誘引餌の設置後は、誘引餌の減り具合を細やかに観察し、追加で餌を置き続けること、加えて新鮮な餌を常に置いておくことが誘引を深めるために重要です。そのため、可能な限り、見回りと詳細な観察をします。 

参考動画:わなの設置位置選定

場所の選定

 誘引餌を設置する場所は、実際にわなを設置する予定の場所です。

【広い視点】選定の際には、シカのけものみちが確認できるエリアを選びます。そのうえでシカが目視できる程度にけものみちから離れた場所に誘引します。わな設置後に毎日見回りを行うことや捕獲された時の運搬などを考え、林道から離れすぎずアクセスのよい場所を選びます。

【細かな視点】誘引餌は、シカが歩み寄りやすい地形(例えば平坦であること、下草が多すぎないこと)を選びます。また、「くくりわな」を固定するための立木が周囲に十分ある場所を選びます。そして立木の根元に誘引餌を置きます。

わな設置場所のイメージ

シカの痕跡

シカのフン
シカの足跡

誘引餌の設置

 誘引餌は、最初は多め(ボール1~2杯分程度)に設置します。シカは、目視で餌を認識するため、誘引餌を山盛りにして目立つように置きます。周囲に切り株があれば、その切り株の上にも誘引餌を置くと、早くにシカが誘引餌に気づく効果が期待できます。

へイキューブの量の目安

わな設置前の見回り

 見回りの際には、餌の減り具合やシカが近寄っているかなどを観察します。餌は新鮮であればあるほど誘引効果が高いため、少なくとも2~3日に1回程度はすべて交換します。雨の日などは傷みが早いため、可能な限り早く交換することが望ましいです。シカが餌付くと、設置した誘引餌はほぼ全量が食べられるようになります。このような状態が連日続けば、餌付けは基本的に完了です。

交換すべき誘引餌(水を含み膨張し、腐敗しやすい)

わなの設置

 事前誘引でシカが餌付いたら、その場所にわなを設置します。わな設置後は、毎日の見回りが必須です。そのため、わなの設置数は、従事にあたる人員、割ける時間を踏まえて、管理が可能な数にします。狩猟においては法令で一人当たり設置可能なわな数は30基以内と定められていますが、一人当たり20基が捕獲効率を下げない適正な数量でしょう。また、わなは1箇所に多くを設置するのではなく、500メートル四方に30基程度が目安です。

参考動画:わなの設置方法

くくりわな

 「くくりわな」は、市販されているもので十分、捕獲ができます。「くくりわな」は消耗品です。外見で損傷がないように見えても、ワイヤーが内部断裂している場合もありますので、1〜2回の捕獲ですべて交換する、常に新品を使うという意識が大切です。本マニュアルでは、動画の中で使用するくくりわなを用いて、解説します。本「くくりわな」は、踏み上げ式の「くくりわな」です。踏板部分を踏むとアームがあがり、ワイヤーを跳ね上げ、バネの力で輪が縮まります。

「くくりわな」の例(オリモ製作販売株式会社「オリモ式OM-30」)

わなの設置方法(扱い方)

①ワイヤーを木の根や幹に固定する(根付(ねつけ))

【ポイント】根付にする木は、捕獲した動物が暴れることも想定して、十分な太さで、かつ生きている木を選びます。
※枯死木や倒木は、根付にしてはいけません。

ワイヤーを木の根や幹に固定する
※蝶ネジはしっかり締める
完成時イメージ

②わな本体とワイヤーをセットする

 この「くくりわな」の場合、本体にワイヤーをセットする際は、本体底部を常に持っておく必要があります。根付した木から本体とワイヤーを持って引っ張ることで、バネを完全に圧縮し、セットが完了します。

根付をした反対側のワイヤーを「くくりわな」本体にセットする。
※バネは箱わなの中心に来るようにセットする。
バネは完全に圧縮させ、蝶ネジを締める
※圧縮や蝶ネジの締めが不十分であると、わなの誤作動に繋がります。

③本体の設置

 わな本体は、シカが誘引餌を食べる時に前足がわなにかかるように位置を決めます。誘引餌からわなの距離は、おおむね40㎝以内が良いでしょう。この距離は、シカが足をついた跡を日々観察することで、縮めるなどの工夫をすると捕獲効率が上がります。こうした観察の経験と試行錯誤を重ねることが重要なのです。

【ポイント】シカは、踏んだ際に音の出る枝などを避けるため、シカが踏むと想定される場所の枝などは除去します。

「くくりわな」本体(箱)がちょうど隠れるくらいの深さの穴を掘る
※シカの足がかからないよう、ワイヤー部分もある程度隠れるよう掘る
底部分は、木の根などを取り除き、平らになるように固める
本体を置いたら、ずれないよう土等で周りを固める

④仕上げ

・本体は、落ち葉などの軽い素材を使って隠す
※ワイヤーはシカの足が引っかからないよう埋めるもしくは隠す
※冬季の注意:土をかぶせすぎると、水分を含むため、本体が凍結し、誤作動が生じることがある。

わな設置後の見回り

 見回りは、必ず毎日実施します。見回りとは、動物が捕獲されているか遠くから確認することではありません。見回りの際には、必ずわなに近づいて、誘引餌が減っているか、足跡がついているかを確認して、誘引餌の量や位置、わな位置などを調整します。詳細に観察することが、捕獲効率を左右します。
 なお、わなに近づく際には、捕獲された動物が潜んでいる場合もあるので、十分注意してください。

 事前誘引時と同様、誘引餌は新鮮さや減り具合をみて随時交換、補給します。2週間以上経っても捕獲されない場合は、わなを移動させます。

参考動画:毎日の見回り

止めさし

 獲物にとどめをさす「止めさし」は、安全かつ速やかに行う必要があります。方法は、おおむね3パターンあります。

・狩猟用刃物で動物の急所を刺す
・猟銃で撃つ
・電気止めさし器で感電死させる

 いずれの「止めさし」を実施するにも、安全かつ速やかに実施するには、日ごろから適切な機材を持っている、習熟しているなど事前準備が不可欠です。特に「くくりわな」で捕獲した場合は、捕獲個体が暴れるので、保定するということも重要な技術です。

わなの再設置

 捕獲があったわなを再設置する場合には、わなに破損や不具合がないかを確認します。再設置場所は、同じ場所でも問題ありません。むしろ、捕獲されたということは、良い場所ということ。再設置後、2週間、シカが来ている様子がない、別の場所でシカの痕跡が多いなどの場合、臨機応変に場所を移動します。

わなの再設置

記録

 捕獲した個体は、1頭1頭、写真と共に、いつ、どこで捕獲されたのかを記録しておきます。捕獲個体の記録は、スマートフォンのアプリケーションから実施できるものもあります。

捕獲記録写真の撮影例

捕獲個体処分

 止めさし後の捕獲個体は、計画通りに適切に処分しましょう。⇒捕獲個体の処分方法

IoTの活用

 捕獲の成果を検証したり、捕獲効率を向上させたりするためには、現場のシカの生息状況をモニタリングする、捕獲した位置などを把握することが重要です。そこで通信機能付きセンサーカメラなど、IoT技術を活用することができます。

通信機能付きセンサーカメラ

 シカの生息状況をモニタリングする場合等(事前調査含む)において、通信機能を有していない機材を使う場合に比べて、データ回収の労力を減らすことができ、有効です。

※一般に、通信機能付きセンサーカメラ本体は、そうした機能を有していないカメラと比べて高価です。加えて、通信料が必要になることを想定しておく必要があります。

通信機能付きセンサーカメラ例

センサーカメラ(通信機能を有してないセンサーカメラ)

 生息密度調査以外にも、事前誘引時に設置することで、誘引されているか、何頭が来ているのかなどを確認することが可能です。

通信機能を有さないセンサーカメラ
誘引されるシカの様子

捕獲通報装置

 捕獲通報装置では、仕掛けたわなに設置することで、わなが反応した際にメール等で通知が発信され、事前に何頭捕獲されているかを推測することが可能です。

※通知が来ないため、捕獲されていない=見回りに行く必要がない、というわけではありません。毎日の見回りは、捕獲効率を向上させるためにも重要です。

アプリケーション

 スマートフォンで利用できるアプリケーションには、無料で位置情報を記録し送受信できるものが複数あります。スマートフォンでセンサーカメラの計画位置や設置位置、さらには捕獲予定位置を記録し、共有することは、調査や捕獲を適切かつ効率的に行う上で有効です。

 工夫次第で、捕獲作業で主に使用される専用アプリケーションにも活用することができます。

参照:農林水産省ウェブサイト

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